虚言は人を殺す。(3)
「いつ頃か知らないけど僕は見られてた。」














「お前の名前は?」
鈴は僕にそう言った。完全に僕を忘れている口調だ。まさか忘れている振りをしているわけではないだろう。それならばあんな言葉は出ない。
直枝理樹を、殺しに来た。
本人にそんなことを言うメリットは何処にも無いし、策略にしたって稚拙だ。僕は思わず溜息をついた。
下らない、と久しぶりに思ったからだ。
「すぐえだあやき」
「?」
「僕の名前だ」
「?変わった名前だな。」
鈴は何の疑問を持たなかったが、漢字に直すと直枝理樹になる。
「直枝理樹という男を知ってるにせよ、知らないにせよ、ここじゃあ話すことはできない。事が事だからね。場所を変えてほしいんだけど」
そう、ここはばれてないのなら他人のふりをすればいい。わざわざ今本当のことを教えるつもりは毛頭ない。
それに、上手いこといけば阻止することも出来る可能性がある。
全然期待はしていないが。
鈴は少しの逡巡の後に「わかった」と言って
、ついてこい、と鈴は歩き出した。
僕は為すすべもなく、そのままついていくことしか出来なかった。



鈴が歩みを止めたのは古い二階建てのアパートの前だった。恐らくそこに住んでるのだろう。お世辞にも良い所とは言えなかったが、僕も似たようなものだったからあまり強く言えない。
周りを見渡すがあまり人気がない。空き地ばかりだ。これじゃあ叫んでも無駄か。心の中で舌打ちをする。
鈴はそのまま2階に上がり一番端の部屋の鍵をあけた。
僕はお邪魔します、と小さく言って中に入った。
その時どんな心境であったのか、覚えていなかった。



「狭いとこで悪いな。」
四畳半の部屋の真ん中に卓袱台がポツンと置かれていて、そこにお茶を持ってきてくれた。ありがとうと言いながら周りを見渡す。
見る限りタンスやら台所やら何やら、生活に必要最低限の物しか置いていない。簡素な部屋だ。と、そこで僕はタンスの上に置かれている写真立てに目がいった。
写っていたのは、恭介のだった。
高校時代の写真なのだろう。制服を着ている。そう言えばもう随分会っていない。いや、正確にはあっちが会ってくれなかったってのが正しいんだけども。それでも、少しは懐かしいと思った気がした。
鈴は僕が写真を見ていることに気が付いたのか「ああ、あれはな」といって笑った。
「私の兄貴だ。棗恭介って言うんだ。」
全く知っているがそうなんだ、かっこいいお兄さんだねと適当に言っておいた。
「ああ、不可能を可能にする男だ」
何だそれ、何処ぞの傭兵かよって思ったけどあながち間違ってないことに気が付いた。
彼は確かに、出来ない事、やれる筈がない事を、平気でやってのける男だった。
だから僕はそんな彼に憧れた。
難儀なことを笑って突破する彼に畏敬の念を抱いていたのだ。
「だけどな」
そこで、突然鈴は暗い声を出した。
「死んだんだ。先月。」
「!?」
僕は動揺した。なんとか顔には出なかったが、頭の中が混乱した。
何だって?
あの恭介が。
死んだ?
「................」
有り得ない。
死ぬ筈がない。
根拠はないが確信が持てる。
そうだ、彼が死ぬということはない。
もし死ぬとしたって。
先に死ぬのは僕なんだから!
鈴は僕の心境を知ってか知らずか、そのまま表情を変えずに淡々と事実を述べた。
死因が自殺だった事。
そして、死ぬ前に既に恭介のもとから去っていた鈴に恭介から遺書が届いたこと。
そこには先立つ兄を許してくれと懺悔の言葉がつらつらと書かれていた事。
「だが、最後の文に震えた文字であることが書かれていたんだ。」
たった一言。
理樹に、殺された、と。
それを聞いて、戦慄した。
僕が、殺しただと?
僕のせいで、恭介が死んだと?
思わずふざけるなという言葉が口からでかかった。
僕は確かに異質な存在だ。
僕は確かに不幸な存在だ。
見るものに嫌悪感を与える存在だ。
それほどまでに、僕はあいつに止めを刺されていたんだ。
でも恭介、君もその一人だ!
僕にとどめを刺した一人だ!
僕を裏切ったのだ。
僕を見捨てたのだ。
恨みたかった。
妬みたかった。
嫉みたかった。
それでも、僕はもうそんな感情すら抱けないんだ。
人格が破壊し感情が破綻し存在が破滅してしまったのだ。
もう、僕は駄目だったんだ。
なのに、君は僕に殺したと。
殺したのは、君じゃないか。
「だから私は、直枝理樹に復讐する。」
鈴は相変わらず表情を変えないと思ったが、違った。耐えていたのだ。
手を握り締めて、感情の激化に耐えていたのだ。
「兄を奪ったあいつを殺す。」
恨み。
憎しみ。
「私にはもう、兄しかいなかったのに。それすらも奪った。」
悲しみ。
哀しみ。
「死刑になろうが構わない。道連れにする。」
痛い。
心が痛い。

「だからすぐえだ。直枝理樹を殺すのを手伝ってくれ。」

鈴は僕にそう言い放った。
.................。
「君のことを全然知らない赤の他人に?」
「あの時、私の話を聴いてくれたからな。」
「僕が協力すると思うの?」
「まず普通の人間なら部屋までついてこない」
................面白い。
「分かった。分かったよ。君に協力する。」
どっちにせよ、このまま殺されるのだろう。
なら、最後くらい懐かしい思い出を思い出そう。
「但し、僕は殺人犯にはなりたくないから見つけるだけだ。」
「当たり前だ。」
彼女は僕に手を差し伸べてきた。
「二人だけだが、それでも私は成し遂げよう。っと、そう言えばチーム名を考えてなかった。」
僕は思わずずっこけそうになった。
まだそんなことを言ってたのか。
まるで恭介だ、と思いながら僕はふと自分の心が落ち着いていることに気がついた。
自分が殺されるかもしれないのに。
しかし、あの負の感情たちは消えていた。
懐かしいメンバーに出会えたのかそれとも他の何かかもしれないが、僕は鈴の次の言葉を想像していた。
そして彼女はこう言った。
「チーム名は、リトルバスターズだ。」
僕の読みは、もちろん当たったのだった。


続く。
呂布
2015年06月21日(日) 10時04分54秒 公開
■この作品の著作権は呂布さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
変な話になりますが恋人が自分の事を死ぬほど憎くて、それなのに自分の事が大好きな二つの感情を抱いている人って絶対居ないとは限らないと思うんです。表裏一体みたいなものでそこに愛情一つしかないってのは逆に怖いものです。死ぬほど大好きって言っている愛情過剰な人ほど長く続かないのはその為でしょう。というか何事も程々にというのが1番いいのかな?そこら辺良く分からないし収拾つかなくなってきたんでやめときますね。というか意味がわからない。
そんなわけで読んでくださった方々にはいつものように感謝感謝です。
ではまた。
呂布でした。

この作品の感想をお寄せください。
感想記事の投稿は現在ありません。
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)点  削除用パス 


<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD 編集 削除