私が僕で、僕が私で。5
言うなれば誰かを嫌いになると言うことは、一種の自己防衛なのだろう。
誰かを拒絶する事で、誰かを傷つける事で、自分を優位にたたせることで、自分の立ち位置を守る。
それを卑怯と言うならばそれまでだ。
だけど、そういってしまう人間の何割はその行為をしなかったのだろうか。
人間の、人間による、人間のための生き方を、どこまで意識して否定してきたのだろう。
僕はいつも思う。
飽くなき非犯罪意識が巷を駆け巡るなかで皮肉を言うならば、まずはそこからだ。
生きるか死ぬか。
そこまでいうならば、問題はそこまで食い込む。
だから嫌なのだろう。
嫌悪感を滲ませて無意識に意識して、卑怯な行為を、フェアプレーじゃない行動を、批評して批判して酷評して弾劾して叫彈する。
それが僕たちだ。
そう、僕もそうだ。
ナイーブで意思薄弱な僕も、きっとそうなんだ。
でも、そうだからこそ、僕は自分が嫌いなんだ。
嫌いで嫌いで殺したいくらい憎い。
みんなそうだろう。
でも、それを奥底にしまいこんで、自殺を、自らを(殺す)事を否定する。
気づかれないように。
本心を気づかれないように。
怯えながら、生きているんだ。
来ヶ谷さんも、そうだ。
きっとそうだ。
でも、たまに信じられなくなる。
あれほど完璧な人間は見たことないから。
人間じゃないのかもしれない。
別の生き物かもしれない。
もし、そうだったら、幸せだ。
そうすれば、君は、多分何の躊躇いもなく。
僕を。







殺してくれるだろう。











目が覚める。見覚えがある天井だ。どうやらここは保健室のようだ。
ああ、そういえば思い出してきた。
「授業中に倒れたんだったなぁ、僕」
ナルコレプシー。
まぁ、そりゃそうだ。
体は来ヶ谷さんでも、心は僕なんだから。
今さら驚きもしない。
体を起こして周囲を確認する。どうやら部屋には僕一人のようだ。
「しかし、変な夢をみたような」
まぁ、思い出せないんだったら大した夢でもないのだろう。時計を確認すると時間は午後の4時。授業も終わっていることだし、来ヶ谷さんを探そう。そうして白いカーテンで回りを閉められていたので、開けた。
横のベッドに眠っている佳奈多さんがいた。
「...............」
何故いる、と思わなくはなかったが、まぁ具合が悪いから保健室で寝てたんだろう。とりあえずベットから降りた時「ちょっと」ひゃあ。
「待ちなさい」
起きていた。いつから?いや、そんなことよりも、独り言聴かれてないよな?
「来ヶ谷さん。話があります」
佳奈多さんは体を起こして僕の方に向けた。
僕も、なんとなくまたベッドに座り直した。
「何故急に倒れたんですか?」
「只の貧血だよ。今日は牛乳を飲んでなかったからかな」
「真面目に答えてください」
怒られてしまった。
「あなたが体調を崩すなんて想像もできません。よっぽど何かあったんじゃないんですか?」
「なんでもないさ、本当に何でもない。それより私のラウンジに来ないか?」
僕はなるべく悟られないように話をそらそうとした。
でも。
「来ヶ谷さん」
そういって、佳奈多さんは、僕を、抱き締めた。
「へ?」
思わずすっとんきょうな声が出てしまったが、しかし、佳奈多さんは、そのまま喋り始めた。
「私はね、好きだったんですよ、あなたのことが」
「ずっとずっと、出会ったときから、貴女の事が、本当に大好きでした」
「カッコ良くてスマートで知性的で、何より」
そういって佳奈多さんは、僕の顔の近くに顔を寄せた。その顔は涙で一杯だった。
「とても、とても、美しかったです」
涙を流しながら、佳奈多さんは、いい続ける。「私は生まれてこのかた恋愛なんかしたことはありません」
「恋なんかわかりませんでした」
「そもそも誰かを好きになったことなんてありません」
「でも、貴女にあって、私は、思いました」
「ああ、美しい」
「思わず見とれました」
「だって、何度も何度も言うように、綺麗で美しかったから」
「それからずっとあなたを思っていました」
「でも、貴方が今日倒れて私は、」
「とても、気が気じゃなくて」
「貴女が居なくなることが嫌で」
「大好きな人が、居なくなることが嫌で」
「だから、私は」
その後の言葉が、涙で続かなくなってしまったようだ。
人が人を好きになること。
そんな経験は、僕は、一度もない。
彼女のように。
でも、彼女は、来ヶ谷さんを好きになった。
きっと僕が倒れて不安だったのだろう。
胸が張り裂けそうになったのだろう。
苦しくて苦しくて堪らないほどに。
来ヶ谷さんを、愛していたのだろう。
「............」
僕は、どうすればいい。
いこのまま僕が決断を下すことなんか出来ない。そもそも僕らが入れ替わってることを知らない。
僕は。
僕は。
そっと来ヶ谷さんの手を取った。
「来ヶ谷さん?」
「君は、今、何の感情を持っている?」
「?」
「安堵か?混迷か?それとも陶酔か?」
僕は、平静を装って話す。
「私はな、感情なんてものは簡単に抑制出来るものだと思っていた」
「.............」
「憤りも悲しみも苦しみも恥ずかしさも何一つな。だが、一つだけ、出来ない感情がある事を知った」
僕は、なるべく頑張って笑顔らしき顔を作ってみる。
「恋だよ」
「恋」
「そう、恋だ。私たちは、押さえきれない物を感じているはずだ」
「え?私たちはって?」
「揺るぎない思い、変わらない心、命の躍動。おっと、少しロマンチストになってしまった。でも、それでも、それは素晴らしいことだ」
それは、本心だ。
人が人を好きなること自体は、とても美しいことだ。
そこだけは、否定するつもりはない。
「だが、言い換えればそれはとても、大切なことだ。それこそ、一晩中考えなければいけないほどに」
僕は佳奈多さんの手をゆっくり握った。
「佳奈多君、一晩考えさせてくれ」
佳奈多さんは、まるで惚ける用に体を左右に揺らし「は、はいぃ」といった。
よし、ちょろい。
「では、お先に失礼するよ。ああ、佳奈多君は寝てなさい。私ならもう大丈夫だから」
そうして僕は佳奈多さんを丁寧に横にさせてシーツを被せる。
佳奈多さんはもはや抵抗さえしなかった。
完全に自分の世界に入っているのだろう。
「じゃあ、また明日」
「...........ええ、また、明日....」
僕は意気揚々と保健室から出ていった。




「しかし、人間の欲というかなんというか、一つの執着心ってのは怖いな」
僕は廊下を歩きながら、さっきの佳奈多さんの言葉を思い出してしゃべる。
「あんなの後々思い出したら恥ずかしいだろうに。全く、恋は人を盲目にさせるとはよく言ったもんだ」
きっと佳奈多さんは、今頃僕の返事を想像しているのだろう。
そして僕からの返事は勿論オーケー。
「人を舐めすぎだ」
僕は多少の苛立ちを覚えながら来ヶ谷さんをさがしたのだった。




続劇

呂布
2015年07月26日(日) 18時02分56秒 公開
■この作品の著作権は呂布さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
うわぁ、理樹すげぇ嫌な奴じゃん。ってのはおいといて、まぁでも、いきなりあんなこと言われたら引きますよねえ。ロマンチストが転じてナルシスト。ドラマチストが悪化してニヒリスト。自分の世界に入ったら、まぁそうなっちゃうんでしょうね。怖いことです。
ではまた。
呂布でした。

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