夏の影(前編)
例えば雲の向こう側を目指す鳥がいたとする。
その鳥は雲の向こう側がどういうところか知らない。
知らない場所に向かって、その鳥は何を思うか。
夏の暑い日。僕は鈴と一緒に鈴の実家に向かっていた。寮から電車まで十分。電車に揺られて一時間、そこから歩いて十五分で着くという算段は一応付いていたのだが、鈴が途中でバテて(十分の道程すらたどり着けないのは完全に計算外だった)、仕方ないから途中の某ハンバーガーチェーン店で休憩をしていた。まぁ特に時間はまだ余裕はあるし(鈴の祖父さんには今日中に来る様に伝えていた)僕はハンバーガーとウーロン茶を頼んで店内の冷気に身を休ましていた。一方の鈴はコーラにバナナシェイクを頼むという謎チョイスをしていたのだがそこはノーコメントで。夏の熱気になんとなくぐだっとしてしまったため仕方なく僕は鈴に暇つぶしの話題を降った。
「鈴、なんで徹子の部屋ってあんな長く続いてるんだろうね」
「面白いからじゃない?」
「...........そうだね」
会話終了。
じゃなくてさ。
「もうちょい伸ばそうよ...」
「理樹が言うと大体屁理屈になる」
「僕はそんなキャラじゃないよ。僕は初対面の女の子や男の子の両方と都合良く仲良くなれてさらにその両方とも都合良く良い雰囲気になれるし勇気があってたまに男の娘にされるそんなどこにでもいそうな有り触れた人間だよ」
「訂正しよう。理樹が言うとだいたい卑屈になる」
ボキャブラリーが増えてきたこと。
良く喋れるようになったじゃないか。
「ところで理樹は実家に帰らなくていいの?」
「実家かぁ」
うーん。
あんまり良い思い出もないしな。
今は相続人の人が管理してるんだっけ?
いつでも自分の「家」に帰れるように、か。
まぁ、僕の家はもう寮みたいなものだけどね。
あそこにいればみんながいる。
いつまでも続けばいいと思ってる。
でもいつかはそれも無くなる。
今のところは、その幻想に縋っていようと思う。
「さてとそろそろ出よう。いくら時間があったとしてもタイムリミットはある。」
「理樹」
「なんだい?」
「おんぶ」
「それは僕に死ねと言ってるの?」
「いいぞー、恋人におんぶなんてなかなか言われないぞーみんな羨むぞー」
「どっから持ってきた知識だよ」
どうせ来々谷さん辺りの差し金だろうな。確かに嬉しいけどこんな真夏日におんぶなんてしてみろ。お互い汗だくどころの話じゃ済まないぞ。
「いいじゃないか。汗と汗が混ざりあって絡み合う場面。ああ、鈴君の汗。なんか響きがエロいな」
黙れ頭の中常時桃色妖怪。







とりあえずなんとか店から出たがらない鈴を説得して僕らは再び駅に向かうため歩き始めた。正直鈴を説得するのにどれだけの労力や精神が摩耗したのかは文字にして本3冊くらいの量になるのでここでは割愛とする。ただここで執行された愛と勇気、五里霧中な自己嫌悪。阿鼻叫喚な罵声が飛び交ったことを(主に一方的だったけども)僕は一生忘れない。
閑話休題。
「あつい」
と、さっきから五回も十回も連呼してる言葉を呟いた。恐らく独り言なのだろう。なぜならその目は正面を見ているがどこも見てなさそうな焦点があってない目だったからだ。
「鈴、大丈夫?」
「7割無理だ」
「そこで完全に無理と言わなかっただけ偉いよ」
逆にこの様子で後三割も残ってるのか。
何が残ってるんだろう。
殺意とかかな。
「はい、シェイクあるからこれ飲んで元気出して」
「なんでシェイクしか残ってないんだ......」
「仕方ないじゃないか。鈴が出てく直前に、最後のチャージ!、とか訳の分からない事言ってコーラ一気飲みしたでしょ。しかもその後にすぐお腹が痛くなってトイレいってたから意味もなくなったしね」
「うるさいなぁ....そんなこと覚えてない」
「さいですか....」
とりあえず鈴もそろそろ爆発しそうだったからいったん引くことにした。
触らぬ神に祟りなし。
「うぇ......シェイク溶けてるしドロドロだ....」
泣きそうな声で言われても。
ブツブツ文句を言いながら、なんとか完全に溶けきったシェイクを飲み干したようだ。
「............チラッ、チラッ」
いや、そんな目で見られても。
「...........」
いや、黙って見つめられても......。
「う〜〜〜!」
唸られても!!!
「理樹!!!!」
と、僕の隣にいた鈴が正面に立った。
顔は完全に怒っている。
猫耳も生えている。
「お!ん!ぶ!」
どんだけわがままだよ。











とまぁ。
夏の炎天下。それこそ日向にでて歩いてるだけで熱中症になりそうな日に、僕は鈴をおんぶしていた。
鈴の機嫌は治り、僕の背中でニコニコしているのは可愛いし汗だくでなんかエロいから別に構わないんだけど(来々谷病が発症した)暑くないのか?
ちなみに僕は死にそうなくらい暑い。
半端なく暑い。
でも、鈴が幸せそうなら。
ま、いっかと思う自分がいるわけで。
それは僕が鈴の事が心底たまらなく好きなんだからだろう。
汗だくになりながら僕はそう思ったのだった。
駅が見える。
「鈴、駅が見えた」
「そうか」
「いや、そうかって」
「駅に着いてはいないだろう?」
「............」

ま、いっか。
呂布
2016年05月13日(金) 03時31分19秒 公開
■この作品の著作権は呂布さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
夏が好きです。あと一話続きます。

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なんかいいよね、甘酸っぱくて
100 七ヶ岳星夜 ■2016-05-13 15:32 ID :
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