不安定な関係(完)
そもそも僕は誰かと何かしらの関わりを持とうとする事を、この十七年間の内で一度でも思ったことがあっただろうか。
ただ機械のように毎日を過ごしていつかくる死の時まで永遠に誰との接点も作らずに本来なら生きていくはずだ。
それが来ヶ谷唯湖。
彼女のせいで僕は思わぬ接点を作ってしまった。
そんな間違いをしたとして、果たしてそれは彼女と出会った時から間違っていたのか。
いや、違う。
最初の間違いは「あいつ」だ。
あの時「あいつ」との接点を作らなければこんなことにはならなかった。
全ての元凶。
というには、少しばかり可哀想な気持ちもあるような、無いような。
閑話休題。
とにかく一刻も早く僕はこんなくだらない騒動を終わらせたかった。
嫌な奴だと思われても仕方が無い。
いや、嫌な奴とすら思われないだろうけど。
今までの僕の人生、誰かに関心を向けられることなんてたった一回しかなかったのだから。














「盗聴?」
「はい、盗聴です。本を盗みに来るので西園さんの席に盗聴器を取り付けます」
「いいアイデアだが.....」
「問題でも?」
「........まぁ、この際贅沢は言ってられんな。あい分かった。その作戦で行こう」
「盗聴器はすぐに買ってきます」
「いや、既に私が持ってる」
なんで持ってるんだ。
「ここに」
なんで今持ってるんだよ。
「まぁ、君のアイデアはそのまま頂くよ。.......」
「なにか?」
「いやぁ、きみは不思議な青年だ」
「そうですか。僕は自分のこと普通だと思ってるんですけどね」
「普通だ。確かに。だが、普通すぎる。何も印象に残らない。はっきりしない。曖昧だ」
「光栄です」
「まるで空気だ。思い出そうとしても今顔をその場で隠されたらもう忘れそうだ。......正直の所、君の事は何回も忘れていた」
「まぁ、そうなりますね」
そういう風に生きてきたのだから。
「だから何回も理樹君に思い出させて貰ったよ。そのおかげでこうやって有力なアイデアを貰った」
「!?」
僕の事を覚えてる。
僕の存在を忘れなかった。
理樹君......恐らく直枝理樹。現リトルバスターズのリーダー、だったな確か。
まぁ、あんな曲者際物属物全てが混ざったようなグループをまとめ上げるくらいだからそれくらいの能力はあるのか。
.........。
覚えておこう。
「じゃあすぐに準備だ」
と言って席を外そうとしたが「そうそう」と立ち止まった。
「きみはこれからどうする?」
「僕、ですか」
僕は、これから、どうする。
また、いつもの生活に戻るのか。
それとも。
.................いや。
「会っておきたい奴がいるので」
しこりは、取り除いておこう。
「では」














確か学校の屋上で電波を発信したら宇宙人と出会えたというくだりから始まる物語があった。
はっきりいって内容はほとんど覚えてないような(シャレじゃない)ものだが、やけにその最初のくだりが記憶に残っていた。
それが僕にとって良い事なのか悪い事なのかどうかはわからない。
でも、例えば普段行かない場所で素敵な出会いがあったとしたら。
例えばそんながあったとしたら。
その時僕は何を思うのだろうか。
拒絶するのか、はたまた受け入れるのか。
正直面倒くさい感じはある。
僕は、だからそんなめんどくさいことを、他人に擦り付けてしまったのだろう。
つまらない悲しみを、他人に押し付けたのかも。
そこで終わる夢を見ることがある。
はたまた夢なのか現実なのか僕にはとんと検討もつかないのだけれども。
そろそろ冬を近くなってきた十月の放課後。
僕は屋上に続く階段を歩いていた。
ただ歩いている訳では無い。目的があって歩いてる。
屋上に、目的の奴がいる。
恐らく居るだろう。
誰もいない屋上。当たり前だ。本来なら入れないはずなのだから。
だから、よくそこで一人になっていた。
僕がじゃない。
分かると思うけど。
まぁ、大体オチは見えてるけどね。
僕は本来なら鍵が掛かってるはずの扉には目もくれず、横にある小さい窓に目を向けた。
大人一人がギリギリ入れそうな小さな窓。そこには窓がなく、風が出入りしていた。
僕は屈みながらそこを潜って、ホコリを払いながら立った。
外は赤く染まっていた。
風はそこまで強くなく、僕の髪の毛を少し揺らすだけだった。
そして扉の正面のフェンスに寄り掛かってる先客がいた。
「あら?」
そいつは別段僕に驚くこともなく気の抜けた声を出した。
「久し振りだねえーちゃん」
口を歪ませて「あいつ」は僕にそう言った。
「久しぶり」
僕は特に意味もなくそのまま返してみた。
「え、ていうかえーちゃんから来るって珍しくない?初めてじゃない?」
「僕はそんな薄情な人間じゃないよ。ただ君に会いたくないけど来ただけだ」
「まぁ、そうだよねぇ。えーちゃんは嫌な奴だし気持ち悪いし死ねばいいと思うし」
昔と変わらない罵声を浴びた。
「........なにしにきたの?」
「お前こそ、何してんだよ」
「何のことやら」
「分かってんだろ」
「あら、まさか分かっちゃってる?」
ふざけた口調で返すが相変わらず口を歪まして世の中全部を憎んでそうな顔をしている。
そういう所もまた、変わってなかった。
「でもえーちゃんが他人と関わるなんてことするんだ」
「違う。一時的だ。僕は他人となんてかかわり合いたいと思っていない」
「それが本心なのか」
「?」
意味のわからないことを言って彼女は僕の所に近づいてくる。
「で、なにしにきたの?」
「だから、お前こそ何してんだよ」
近づく。
「分かってるくせにそうやって言う」
「お前こそわかっててしらばっくれる」
近づく。
「そうだよ、そうやって生きてきたんだから。えーちゃんだってそうでしょ?」
「違うね。僕は本当のことも嘘も言ったことは無い」
「それはさいていだよ」
そして、止まった。
お互いの距離は1メートル。
僕と彼女は無言で見つめあった。
「................」
「................」
僕は、次に彼女が何を言うか想像していた。
でも、彼女は全く違うことを言った。
「昔から恋愛ものが好きでね」
「?」
「特に昼ドラが好きだった」
僕が戸惑っていてもお構い無しに話す。
「他人と他人が他人の為に傷つけて傷つく。私はそれを見るのが大好きだった」
彼女はそこで初めて笑った。
見るものを不快にする笑い方で。
「だから、人が一番傷つく方法を考えた時、一つの結論が出た」
なんだと思う?と僕に言ってきた。
僕は答えない。
「答えは喪失」
「.....................」
「一番大切なものを知らない誰かに奪われる悲しみは、多分想像を絶する位に傷つくと思うの」
「お前.......」
「だから、今までずっとやってきたんだ。でもまだまだ駄目。全然駄目。彼女の周りに五月蝿い蝿がいる」
その中には、僕も入ってるのだろうか。
「だから、もうちょっと酷いことしようと思ってるの」
なんだと思う?と再度問いかけてきた。
「正解はね





人殺し。





直枝理樹君とかどうかなって?」
僕は、それを聞いて、ヤバい奴だと思った。
いや、想像以上に、ヤバい。ちょっと見くびってた。
ヤバい。
イカレテル。
何よりも、本当に実行できそうだと思ってしまう雰囲気がある。
何か確信的な。
そんな雰囲気。
でも。
「無理だ」
僕は断言した。
普通の人間らしく、ただただ断言した。
「なんで?」
「だって」
だって。
いや、そりゃあ。






「人殺しは、犯罪だろう?」



















「は?」
「誤って殺害したって懲役5年とか普通にあるのに、故意に殺したりなんてしたら十年、下手したら終身刑だってありえるよ」
「いや、いやいやいや、何普通のこと言ってるの?なんでえーちゃん?え、なんで?」
「そんな疑問詞だらけの言葉なんか聴きたくないよ」
「そんなこと関係ねぇよ今!なになに?えーちゃんなんで?なんでそんな事言うの?」
「いや、なんか勘違いしてるかもしれないけど.........」
僕はため息をついた。
だから言ったろう、オチが見えてるって。
「僕は普通の人間だ。特殊な能力もましてや最高峰の頭脳なんてものもない、ただの人間だ。だから君みたいなイカレポンチは止めることなんて出来ないし、したくない」
馬鹿らしく思いながらも、噛み砕くように説明する。
「だから、常識を言った」
「常識........?」
「君が止めようが止めまいが、そんなことはお構い無しに僕は常識を言った。小学生でも分かることをね」
「...........それで?」
「それで......って?」
「いや、何かあるでしょ普通」
「そんなこと普通じゃないよ」
僕は誇らしげに言った。

「普通だから、これでおしまい」

「おしまいって......」
「だから君がこれからどんな行動をしようとも僕は一切口出しをしないし何も思わない。僕の役目はこれで終わりだし正直疲れた」
大体僕みたいな根暗でつまんないヤツの事なんて誰も構うはずがないし僕自身いい加減ベットで横になりたい気分だ。
「.........................................ふ」
ふふっ、と抑えるように笑った。
「そうだったね、えーちゃん。君はそんな奴だったよ」
彼女は俯く。そのせいで表情が見えない。
「無責任で無計画で、かと言って何も考えてないわけでもない。だからあつかいにくい。だから」
そこまで言って、彼女は顔を上げた。
「 ............やっぱ無し」
「無し?」
「何でもないっ」
そう言ってるのを見て、僕はとても驚いた。
彼女が笑っていたのだ。
とてもとても、無邪気に笑っていた。
初めて見る表情だった。
初めての出来事だった。
そんな彼女を、僕は。
「人殺しは、やめた」
そう言って僕の後ろにある出口に向かっていった。
「でも、最後のけじめはつける」
そして「そうだ」と言った。
「えーちゃんはこれからどうするの?」
これは、来ヶ谷さんにも言われた台詞だ。
その時はこいつに会いに来る目的だったが、今度は。
「...........いつも通りだよ。いつも通りにいつも通りの事をするよ」
「えーちゃんらしいね」
「そりゃあ、僕だから」
「............うん」
彼女は、何かを納得したようにうなづいた。
「じゃあね。多分もう二度と会えないと思うけど」
「いやいや、世界は広いよ。君が死んだとしても、君とまたどこか出会えるはずだ」
「その台詞自分で考えたの?」
「いや、僕の好きな本の引用だ」
「やっぱり」
それで後ろから「バイバイ」と声がして少しガサゴソと音がなったきり、もう彼女の声は聴こえなかった。
後ろを振り向いてみたが、案の定彼女はいなかった。
屋上には僕一人だけ。
寂しいものだ。
「でもまあ、本当の孤独ってものは得てして他人と共有することは出来ないし」
そんなどうでもいいうんちくを言って僕は歩き出した。
「帰って寝る」

















その後の顛末として彼女は来ヶ谷さんと理樹君(会ったことは無いけどそう呼ぶことにした)にあっさり成敗された。その後、くしくも僕が盗聴器で録った録音内容によって彼女は追い込まれ、自主退学。僕はそれを噂で知ってたがどうすることも出来なかった。
来ヶ谷さんとはその後話す機会があって。
「EXILEのChooChooTRAINとかいう奴のどこら辺が電車なんですか?」
「むしろ私には孔雀に見えたが」
とかなんとか話してメアドを交換した。彼女とは話の趣味があって楽しい。
理樹君とは一度だけ会ってみたが、なんだかお互い気まずくてほとんど話すことが出来なかった。しょーがないのでまた話す機会を作ろうという事で、メアドを交換した。
その後、なし崩し的にリトルバスターズのメンバーとも交流することになってしまって、僕はしばらくの間「慣れない他人との交流」に疲れてしまった。
まぁ、そんなとこかな。
思えば最初の方で1年だが一ヶ月だかの出来事とか書いた記憶があるけど全然覚えてない。
それだけ忙しかったってことだ、と自分に言い聞かせてみたり。
閑話休題。
てなわけで、僕の一生の内で恐らく一番大きな出来事はこれにておしまい。
結局他者との交流をしてなんかお前ブレブレだなとか思うかもしれないけど、実際問題そうだ。
ブレブレだ。
ていうか、人って自分では絶対に変われないのに他人が介入すると簡単に変わるのな。
そこら辺初めて知った時、軽いカルチャーショックを受けたよ。
えっと、で、まぁそんな感じかな。
もう書くことないや。
これ、原稿用紙何枚分だ?
分かんないし数える気も無いけど。
まぁいいよね。
お前に送る手紙なら、このぐらいテキトーでも。
言っただろう?世界は広いって。
世界は広いから、また会うことは出来るって。
だから、お前に会いに行くのさ。
でも急にはなんだから、こうやって先に手紙を送ったんだ。
その中身の無い手紙を読んでお前がどう思うかは知らない。
でも、それを読めば昔のことは思い出せるはずだ。
だから、僕が来るまでに、昔のことを思い出しながら、ついでに洒落た一言を考えながら待っててくれたまえ。
ではまた。
えーちゃん。














一つ二つと数える。
ああ、もうすぐね。
私はカレンダーを見た。
ヌルくなったお茶を飲んで、深く溜息をつく。
夏とともに、私の気持ちも近づく。
私はそれに気づいて、一人で照れていたのだった。







終。
呂布
2016年06月27日(月) 23時43分03秒 公開
■この作品の著作権は呂布さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
終わりです。番外編みたいなものも書きたいような書きたくないような。

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